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事故の事例
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jump!  事故発生年月日
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jump!  事故当時の気象状況
jump!  事故日までの気象状況
jump!  事故に至る経過
jump!  練習内容及びJの行動
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私立高校の生徒が、野球部の合宿練習中に
日射病に罹患して死亡した事故
 事故発生年月
 1978(昭和53)年8月4日
 
 発症者の経歴等
 発症者は私立高校1年生の野球部員、J(16歳、男性)。
Jは昭和53年4月に入学、特別教育活動の一環としての野球部に入部した。
 6月28日から3日間、腹痛のためT病院に入院して精密検査を受けが
その際に、消化器系統に異常はないと診断をされ
合宿当日まで平常の部活動に参加していた。
 
 事故発生場所及び状況
 M市の河川敷にあるI野球場
  
 事故当時の気象状況
  M市
日時 天気
概況
気温
湿度
風向
16方位
風速
m/s
雲量
10分比
日照
0.1h
8/4 09:00
時々
25.4 81 S 4.1 10 -
12:00 25.0 90 SSE 2.2 10 0.1
15:00 25.6 75 NW 2.2 10 0.2
最高 10:30   27.6 - - - - -
最低 04:05   - 70 - - - -
 
 事故日までの気象状況
  M市
  7/29 7/30 7/31 8/1 8/2 8/3 8/4
天気概況
(06-18時)
曇後晴 晴後曇一時雷雨 曇後晴 晴一時雨 曇後晴 曇時々雨
気温℃(平均) 28.1 27.8 25.7 27.4 29.6 27.6 24.1
気温℃(最高) 34.3 35.3 29.9 33.5 36.6 32.7 27.6
湿度%(平均) 75 78 80 74 69 79 82
  
 事故に至る経過
 Jは野球部が8月4日から7日間の学校に泊まり込んで行なう
夏期合宿に参加した。
 参加者はJの他、野球部員20数名、A監督とI部長。
 
 練習内容およびJの行動
09:00
-10:30頃
高校の教室においてミーティング
 A監督が合宿の目的、練習の内容などを説明した。
その他、健康状態の悪いところはないかと問うたところ
部員1名が練習に参加できないとの申し出がなされたが
Jからは何らの申し出は無かった。
10:30頃 休憩
 A監督は昼食を取るようにと指示した。
Jと部員Mと「食べると体の調子を悪くする。」などと話し合って
昼食を摂らなかった。
11:30頃 高校を出発
 部員たちは、ランニングで練習場所である
河川敷の野球場まで行った。
11:50頃 野球場に到着
  休憩(10分間)
12:00頃 体をほぐすため、軽いランニングと準備運動
12:15頃 一周(200〜300m)のコースを1分間のペースで
合計20周するのランニング
 Jは3列縦隊の最後尾に位置して走っていたが
17週目頃になって体調の不調を覚え、具合が悪くなったと言い出した
付近のものから先頭のG主将に言うように言われ
先頭まで追いついて、「休ませてくれ。」と声をかけた。
Gは、このとき後3周で終わるということを考え、
Jに「どこが悪いか。」と問うたが
Jの顔は見ないまま、一緒に走っていたニ年生とともに
「もうちょっとだ、頑張れ。」と言った。
Jは元の位置に戻り、付近のものに「頑張る。」と言い、
集団から2、3m位遅れながらも、20周を完走した。
この練習の後、特に一年生は疲れたと言っていた。
12:30頃 A監督とI部長は自家用車で高校を出発
12時30分過ぎに野球場に到着した。
 A監督が見ると、部員らは一団となってランニングをしており
その最後尾から2、3m遅れて走るものが一人いた。
ただ、それがJであることまではわからなかった。
  ランニング終了後、部員達はいったん一塁側ベンチに集まって
A監督の話を聞いた。
12:35頃 一対一のキャッチボール練習
 Jは練習に加わらず、1人だけ一塁側ファウルグランドにおいて
中腰の球拾いの姿勢をして練習を見ていた。
前主将のN(三年生)は、そのようなJを見て
一緒にキャッチボールをやろうと声をかけたが
Jは医者に止められているためできないと断った。
Nは肩でも痛めているのかと思い、
また、Jが足を少しふらつかせているのを見て
疲れていると思って心配になり、ベンチで休んでいるようにとすすめた。
 GはJに、トスバッティングで使うバットを並べておくように言ったが
Jは、どのバットにするかなどと問い返してバットを持とうした。
Nはこれを見て、Jに対しなお休むように言った。
 そのころA監督は、練習をしている部員の間を歩きながら
ボールの投げ方などを指導していた。
一方、I部長は車内から部員らの練習を見ていた。
12:50
-13:00頃
 ベンチの後方で地面に腰を下ろして休んでいるJの近くを
キャッチボールの球が転がっていった。
 Jは他の部員と一緒にボールを捜しをしたが、
ボール発見後もJは探している様子だった。
これを見ていたNはJを制して「休んでいろ。」と言った。
 そして、Nがキャッチポール練習をしている方に目をやったところ
背後で足跡がしたので振り向くと、Jが倒れていた。
I部長が走り寄ってきていた。

 I部長は、車内での昼食が終わる頃、グランドに目をやると
誰かがボールを捜している仕草をしていたところ、
突然ふらふらと倒れた。
 車から降り、走り寄ってみると、Jであることがわかった。
I部長がみたところ、Jはグラブを肩のところに敷き、仰向けになり、
目を閉じ、赤い顔をしており
「Jどうした。」と声をかけても返事は無かった。
そこで、I部長はA監督を呼んだ。
A監督は、Jが倒れたことに呼ばれて初めて気づいた。
 I部長は部員らに、タオルを持ってくるように叫んだところ
部員がタオルを持ってきたので、水道の水でぬらしてJの額に載せた。
 一方、A監督もJの名を呼び、ベルトをゆるめ、
ユニホームの胸を開かせ、スパイク、ストッキングを脱がせた。
呼んでも目をつむったままであったので、頬を叩いて名前を呼んだが
それでも意識がない状態であった。
 一旦は、救急車を呼ぶことも考えたが
電話があるところまで5分くらいかかることから
I部長の車で病院に連れていくこととした。
 背もたれを倒した助手席にJを横たえて載せ、
I部長が運転、Nが後部に同乗して出発した。
 どの病院に行くか迷ったが、かねてから高校では
内科的な病気が発生した場合には
高校近くのO医院につれていくことが通常であったこと
また、大病院へ転医するにも交通が至便であることから、
O医院へ向った。
約5分ないし10分で着いたが、その間Jの容態に変化はなかった
13:10頃 O医院に到着
13:20頃 診療開始
 医師は、I部長からそれまでの経過を聞いた後、
Jの名を呼んだが返事はなかった。
そこで、瞳孔、脈拍数、血圧を測定し、聴診器で心音を聞きつつ、
看護婦に体温を測らせ
更に、白血球数を調べるように命じた。
 診察の結果、意識喪失、瞳孔散大、
脈拍微弱で1分間に120回の頻脈
血圧は最高(水銀柱)50mm、最低測定不能、体温40.6℃、
心音微弱、白血球数10000。
 医師はJが日射病末期・心不全の状態にあるとし、
もはや日射病に対処すべき段階ではなく
主に心不全の治療をなすべきであると判断し治療をした。
 また、足が乾き、その末端が冷たくチアノーゼとなり、
かつ痙攣硬直をしていたことから
Jの胸から足にかけて毛布をかけ、湯たんぽを入れた。
14:20頃  医師は看護婦に氷枕を持ってくるよう命じ、
Jにかけてあった毛布を取り
汗でぐしゃぐしゃに濡れたアンダーシャツを切り裂いて脱がせ
氷枕をするとともに、氷水でぬらしたタオルを
額と胸に置いて冷やした。
14:30頃 1回目の点滴が終了し、2本目の点滴をしても意識が回復しなかった。
 また、これまでの治療によっても
様態に好転の兆しが見えなかったことから
日射病に対してなすべきことを施した。
15:00過ぎ  Jは喘嗚をさせるようになった。
その頃の体温は41.5℃であった。
 そして、医師は自分の医院では処置できないことを慮り、
転医を決めたところ
Jの両親の意向により救急車が手配され、到着した。
15:30頃 O医院でJは死亡。
 出典
昭和60年2月21日 盛岡地方裁判所 判決 昭和55年(ワ)第208号
損害賠償請求事件 棄却
判例タイムズ555号248項

菅原哲郎(1994) 野球部合宿中の熱射病を原因とする急性心不全の死亡事故と
医師の不可抗力の抗弁
臨床スポーツ医学 11(11) 1335-1337
 
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